持分移転登記とは?所有権移転登記との違いや費用について徹底解説
更新日:2021-08-14
『持分移転登記って何?』
『所有権移転登記と何が違うの?』
『どの位費用がかかるの?』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士の樋口(@toruhiguchi)です。
私は東京都新宿区にある司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士をしております。
取扱業務は主に不動産登記、不動産に関する訴訟手続きです。
この記事を読むことで持分移転登記についての理解が深まるはずです。
そもそも持分移転登記とは?
持分移転登記とは、1個の不動産のうちの一部について、名義を変更する場合に行う登記のことです。
この手続きにより、新たな名義人が不動産の共有持分を取得します。
下の図では、所有権や共有持分が移転するパターンを、いくつか挙げています。
上記の手続きのうち、下記の3つをまとめて「持分移転」と呼ぶことが多いです。
・㋒所有権一部移転
・㋓持分全部移転
・㋔持分一部移転
いずれも、㋐のように100%の権利が移転するのではなく、共有持分が移転するという点が特徴です。
所有権移転登記と持分移転登記の違い
所有権移転登記と持分移転登記との違いは、登記手続きにより移転する権利が、100%の所有権なのか共有持分なのか、という点です。
その他の部分、例えば、手続きの流れや登記に必要な書類などについては、大きな違いはありません。
所有権移転登記について詳しく知りたい方は『不動産購入時の所有権移転登記って何?具体的な費用と報酬の相場について解説』をご覧ください。
持分移転登記が必要になるケース
ここからは、実務上、持分移転登記が必要になる、よくあるケースをご紹介していきます。
実務上持分移転登記を行うケースは下記7つです。
・持分を購入(持分を売買)
・共有持分を相続(遺産相続)
・離婚に伴い共有持分を財産分与
・共有物分割
・共有持分放棄
・登記の内容が誤っていた場合(真正な登記名義の回復)
・持分を贈与
一つ一つ詳しく解説します。
持分を購入(持分を売買)
持ち家が戸建ての場合、自宅とその土地だけではなく、前面の道路も所有していることがあります。
この道路部分の登記名義が、単独所有ではなく、近所の人たちとの共有になっていることがあります。
このような戸建てを売る際には、道路持分も売買対象になります。
分譲業者Eが、4区画の分譲地を、道路持分と一緒にABCDに売った、という例を見てみましょう。
①Aに対し、1番1の土地と道路持分25%を売った。
→100%のうちの25%を移転しますので、「所有権一部移転」登記手続きをします。
②Bに1番2の土地と道路持分25%を、Cに1番3の土地と道路持分25%を売った。
→持分75%の中から25%ずつ移転しますので、「持分一部移転」登記手続きをします。
③Dに対し、1番4の土地と道路持分25%を売った。
→Eの残りの持分は25%ですので、「持分全部移転」登記手続きをします。
また、持ち家がマンションの場合、集会所やポンプ室などの建物を、居住者全員で共有していることがあります。
敷地権化されていないマンションでは、底地となっている土地について、居住者全員が持分を持っている場合もあります。
この場合、自宅(専有部分)の権利を移転する際には、集会所や底地の持分も一緒に移転する必要があります。
共有持分を相続(遺産相続)
不動産の共有者のうちの誰かが亡くなった場合には、その持分は相続の対象となります。
例えば、Bが亡くなり、その相続人は配偶者Aと子Cの2名であったとします。法定相続分で登記した場合、2人の相続分は2分の1ずつですので、B持分50%については、Aが25%、Cが25%の割合で取得することになります。
離婚に伴う財産分与
夫婦がマイホームを購入する際、お互いに自己資金を出し合ったり、ペアローンを組んで購入したりした場合には、出資の割合に応じて不動産を共有することになります。
例えば、Aが3,000万円、Bが2,000万円のペアローンを組み、5,000万円のマイホームを購入した場合には、A持分60%、B持分40%で登記がされます。
その後、AB夫婦が離婚したため、Aが自分の持分をBに譲渡し、Bが引き続きマイホームに住み続けることにした、という例で説明します。
AがBに持分を譲渡する理由としては、主に次の3つが考えられます。
・㋐夫婦で築き上げてきた財産の清算(清算的財産分与)
・㋑慰謝料(慰謝料的財産分与)
・㋒離婚後、経済的に困窮する可能性がある配偶者に対する、自立できる期間までの扶養(扶養的財産分与)
3つのうち、どの意味合いで譲渡がされた場合でも、登記手続きとしては、財産分与による持分移転を行うことになります。
なお、離婚時にまだローンが残っている場合には、事前に金融機関に報告・相談をする必要があります。
住宅ローンの約定には、金融機関の承諾を得ずに所有者を変えてはいけないという条項があるためです。
共有持分の譲渡も、ここでいう所有者の変更にあたります。
また、Aのローンが残っていると、Aが返済をしなくなった場合は競売にかけられ、Bがマイホームを失ってしまう可能性があります。金融機関に相談して債務引受をさせてもらう、ローンの借り換えをするなどして、ローンの名義をBに変更するのが望ましいです。
共有物分割
共有物分割とは、共有している不動産を物理的に分け、各人の単独所有にする手続きのことです。この手続きにより、共有関係を解消することができます。
①AとBが50%ずつで共有している土地を、2つに分筆します。分筆とは、物理的に土地を線引きして土地の区画を分けることです。
分筆しただけの段階では、それぞれの単独所有とはなりません。AB共有の土地が2つできます。
②一方の土地について、BからAに対し、持分全部移転登記の手続きをします。
③もう一方の土地について、AからBに対し、持分全部移転登記の手続きをします。
持分放棄
共有者は、自分が持っている持分を放棄することができます。放棄された持分は、他の共有者に、その持分割合に応じて帰属します。
例えば、Bが自分の持分を放棄したとします。残りの共有者AとCの持分割合は3:2ですので、Bが持っていた持分50%については、Aが30%、Cが20%の割合で取得します。
登記の内容が誤っていた場合
AB共有名義(持分50%ずつ)で不動産を取得したにもかかわらず、誤ってA単独名義での登記申請がされてしまうことが時々あります。
この場合には、もう一度登記を申請し、A50%、B50%の正しい権利状態に直す必要があります。
登記を直す手段としては
①所有権更正登記を申請する方法
②真正な登記名義の回復の登記を申請する方法
とがあります。
このうち、②真正な登記名義の回復は、AからBに対し、本来のB持分50%を移転することで、登記を正しい状態にする手続きです。
持分を贈与
共有持分も財産ですので、自由に処分することができます。
AB共有の不動産について、Aが自分の持分だけをCに贈与したい場合には、他の共有者Bの同意を得なくても、手続きをすることができます。
持分移転登記の費用
ここまで、持分移転が行われるケースを見てきました。
次は、実際に登記手続きを行う際にかかる費用について説明をします。
手続きにかかる費用は、大きく分けて登録免許税と司法書士報酬とがあります。
登録免許税
登録免許税は、登記を申請する際に国に納める税金です。司法書士が手続きを行う場合には、事前に依頼者の方からお預かりし、代わりに納付します。
持分移転登記の登録免許税は、次のように計算します。
(不動産の固定資産評価額)×(移転する持分)×(税率)=(登録免許税)
固定資産評価額は、評価証明書や課税明細書に記載されています。ただし、ここに記載されているのは不動産全体の価格ですので、持分割合で按分し、移転する持分の価格を算出します。
税率は、手続きの内容によって変わります。
例えば、AとBが、固定資産評価額3,000万円の不動産を、各50%ずつで共有しているとします。AがCに対し贈与をした場合の登録免許税は、30万円になります。
(3,000万円)×(50%)=(1,500万円) ←移転する持分の固定資産評価額
(1,500万円)×(2.0%)=(30万円) ←登録免許税
司法書士報酬
登記手続きを司法書士に依頼した場合には、登録免許税などの実費のほかに、報酬もかかります。
報酬は各司法書士事務所が自由に決めることができるため、事務所によってかなり差があります。
一般的には、2万円から6万円のところが多いようです。
自分で手続きする場合の登記申請の流れ
登記の申請は、司法書士に依頼せず、自分で手続きをすることも可能です。
この場合には、自分で必要な書類を揃えて申請書を作成し、法務局に提出をします。
ここからは、事例をもとに、申請書の書き方や必要な書類などについて解説をしていきます。
【事例】
AとBは、地番「1番2」の土地を、持分50%ずつで共有している(土地の固定資産評価額は3,000万円)。
AとCは、令和3年4月15日、Aの持分についての売買契約を交わし、Cは手付金を支払った。
残りの売買代金は、令和3年5月31日に支払われた。
必要書類を用意する
まずは、申請に必要な書類を用意します。
下記最低限必要となる書類です。
㋐登記識別情報(登記済証)
㋑登記原因証明情報
㋒印鑑証明書
㋓住民票
上記の4点が挙げられます。このほか、個別の事案によっては、さらに追加で書類が必要になることがあります。
㋐~㋓の書類の内容については、後ほど詳しく説明します。
書類が足りない、内容が誤っている、などの不備がある場合には、登記の手続きを進めてもらうことができません。簡単に直せるようであれば、法務局から、一定の期間内に修正をするよう求められます。
この期間内に修正をしなかったり、重大な不備があったりした場合には、申請の取下げまたは却下となってしまいます。
登記申請書
登記の申請書は、次のようになります。
(申請日:令和3年5月31日、申請人:A及びC の場合)
①登記の目的
Aの持分をすべてCに売ったので、「A持分全部移転」と記載します。
②原因
実際に権利が移転する日と、移転する理由を記載します。
本来、売買契約は口約束だけで成立し、契約成立時に所有権が移転するのが原則です。
しかし、実務上は、契約時に手付金を支払い、後日残代金を支払ったときに所有権が移転するという特約を付けることが多いです。
事例では、令和3年5月31日に残代金の支払いがされていますので、原因日付は令和3年5月31日となります。
③当事者
登記の名義を手放す人を「義務者」、新たに登記の名義人となる人を「権利者」といいます。
事例では、買主であるCが権利者、売主であるAが義務者となります。
Cの名前の横にCの印鑑(認印でもよい)を、Aの名前の横にAの実印(印鑑証明書と同じ印鑑)を押印します。
④添付情報
申請書と一緒に提出する書類を記載します。
⑤登記識別情報を提供することができない理由
登記識別情報通知がある場合には、チェックは不要です。
登記識別情報(登記済証)がない場合でも、代替手段が3つありますので、持分移転登記手続きを行うこと自体は可能です。
代替手段のうち、司法書士に登記手続き依頼し、本人確認情報という書類を作成してもらうという方法を取ることが多いかと思います。
⑥登記識別情報の通知
この欄にチェックを入れてしまうと、登記の完了後に登記識別情報が発行されません。
登記識別情報がないと、将来この土地を売却をしたり担保権を設定したりする際に、余計な手間や費用がかかってしまいます。
⑦申請日と法務局
申請書を提出する日と、管轄法務局を記載します。
⑧課税価格
(固定資産評価額3,000万円)×(持分2分の1)=1,500万円
⑨登録免許税
(1,500万円)×(税率1.5%)=225,000円
⑩不動産の表示
持分を移転する不動産の表示を、登記簿の通りに記載します。
登記原因証明情報
登記原因証明情報とは、なぜ今回の登記を申請するのか、その理由となる事実や法律行為を記載した書類です。
売買の場合には、取引があったことを示す売買契約書と、代金の受け渡しがあったことを示す領収書とで、登記原因証明情報とすることができます。
ただし、この場合、売買契約書や領収書の原本を法務局に提出しなければいけません。登記が終われば返してもらうことができますが、大事な書類を提出することに抵抗がある方が多いかと思います。
そのため、別途、「登記原因証明情報」というタイトルの、報告形式の書類を作成することが一般的です。
登記原因証明情報について詳しく知りたい方は『登記原因証明情報とは?』をご覧ください。
印鑑証明書
義務者であるAの印鑑証明書を添付します。登記申請書に押印されたAの印鑑の印鑑が実印かどうか、法務局が照合をするためです。
印鑑証明書は、登記申請日から3か月以内のものが必要です。
ここで、印鑑証明書に記載されている住所氏名は、登記簿上の住所氏名と一致していなければなりません。引越しや結婚などで住所や氏名が変わっている場合には、移転登記の前に住所氏名の変更登記を申請する必要があります。
なお、住所氏名の変更登記と移転登記とは、同時に申請の手続きを行うことが可能です。
登記済権利証(登記識別情報)
一般に権利証と言われているものです。
以前は「登記済(権利)証」というタイトルのものでしたが、平成17年3月から様式の切り替えが順次なされ、現在では「登記識別情報通知」というタイトルの書類になっています。
売買の際には、義務者であるAの登記識別情報(登記済証)が必要になります。
登記済証の場合、AとBが同時に名義を取得したのであれば、2人の登記済証は併せて1冊しか発行されていません。登記申請の際には登記済証の原本を提出する必要がありますが、登記が完了すれば返却してもらえます。
返却後の登記済証は、Aについては移転済みですが、Bの登記済証としては引き続き有効ですので、大事に保管してください。
一方、登記識別情報は、物件ごと人ごとに発行されます。事例の土地については、Aの分とBの分、併せて2通の登記識別情報が発行されています。
申請の際には、権利を移転するAの分のみを封筒に入れ、封をして提出します。
封筒の表には、Aの氏名、登記の目的、登記識別情報が入っている旨を記載します。
登記識別情報通知の原本は返却されません。
法務局へ提出
必要な書類と申請書の準備ができたら、登記を申請します。
登記を申請する方法としては、次の3つがあります。
・㋐法務局の窓口に行って提出する
・㋑書類を法務局に郵送する
・㋒インターネットで申請する
㋑郵送の場合、登記の申請日は、郵送物が法務局に到着した日になります。
5月31日に発送すると、法務局への到着は翌日か翌々日になると思われますので、売買日と申請日とがずれてしまいます。
㋒インターネットで申請するには、電子署名と電子証明書が必要です。
また、申請人がAとC2人の登記申請をインターネットで申請しようとすると、手続方法が複雑になってしまいます。
事例の場合には、㋐法務局に直接行って手続きをするのが、最も確実でやりやすい方法だと思われます。
登記完了後書類の受け取り
登記が完了すると、新たにCの登記識別情報が発行されます。
登記識別情報は、法務局で受け取るほか、郵送でも受け取ることができます。郵送で受け取りたい場合には、その旨を申請書に記載しておく必要があります。
法務局で受け取る場合には、原則としてC本人が出向き、身分証明書を提示する必要があります。
郵送で受け取る場合には、申請書と一緒に返信用封筒を出します。本人申請(個人)の場合、本人限定受取郵便での郵送となります。
当サイト経由でお問い合わせをし、ご依頼を頂いた場合司法書士報酬一律定額66,000円(税込72,600円)or99,000円(税込108,900円)でお手続きいたします。