所有権保存登記とは?登記費用や自分で手続き出来るか詳しく解説
更新日:2021-08-21
『所有権保存登記とは何か?』
『所有権保存登記にかかる費用を知りたい』
『自分で所有権保存登記の手続きをしたい』
この記事はそのような方向けに書いています。
こんにちは、司法書士の樋口(@toruhiguchi)です。
私は東京都新宿区に本社を構える司法書士法人リーガル・ソリューションの代表司法書士で、不動産登記、不動産に関する訴訟手続きをメインに取り扱っています。
この記事を読むことで所有権保存登記についての理解が深まるはずです。
この記事で分かること
所有権保存登記とは?
所有権保存登記とは、その不動産について初めてする、権利に関する登記のことです。
不動産の登記簿を見ると、その物件に関する権利関係がわかるのですが、新しくできた不動産には、まだそのような記録がされていません。
ここに所有権保存登記を入れることで、その不動産の所有者が誰なのかを示し、所有者の権利を保全することができます。
新しく不動産ができるのは、例えば次のような場合です。
【土地の場合】
・海を埋め立てた
・国から払下げを受けた
【建物の場合】
・建売住宅や新築マンションを購入した
・注文住宅が竣工した
個人の方が手続きをされる場合には、建物についての所有権保存登記であることが多いかと思います。
ただ、一口に建物といっても、一戸建てとマンションとでは、手続きの内容が大きく違います。
今回は、一戸建ての場合に限定して、その所有権保存登記手続きの解説をしていきます。
表示(表題)登記と所有権保存登記の違い
所有権保存登記の前提として、建物表題登記(表示の登記)というものが必要になります。
表題登記の手続きは、土地家屋調査士が行います。この手続きが完了すると、下の図の「表題部」の部分が登記簿に記録されます。
表題部を見ると、建物が建っている場所や建物の構造、床面積など、建物の物理的な状態がわかります。
その次に、司法書士が権利に関する登記の手続きを行います。上の図にある「権利部(甲区)」と権利部「(乙区)」をまとめて、権利に関する登記といいます。
甲区には所有権に関するものが、乙区には所有権以外の権利(抵当権など)に関するものが記録されており、建物に関する権利関係を知ることができます。
建物表題登記は、所有権を取得してから1か月以内に申請しなければなりません。
これは義務ですので、怠った場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。
他方、所有権保存登記の申請に関しては、このような規定はありません。
申請をするかどうかは、所有者の判断に委ねられています。
所有権保存登記と所有権移転登記の違い
所有権移転登記は、その不動産の所有者が変わった場合にされる登記です。
不動産について、最初に名義を取得した人については所有権保存登記手続きを、2番目以降に名義を取得した人については所有権移転登記手続きを行います。どちらも、その不動産の所有者が誰かを公示するという点では同じです。
【例】
Bは、業者Aから、平成23年3月21日、建売住宅を購入した。
Bは、Cに対し、令和3年5月31日、この住宅を売却した。
この場合の登記記録は、次のようになります。
所有権保存登記が完了すると登記簿はどうなる?
所有権保存登記が完了すると、登記簿に次の事項が記録されます。
・所有者(共有者)の住所
・所有者(共有者)の氏名
・共有の場合には、それぞれの持分
登記簿に記録されることで、自分がその建物の所有者であるということ(所有権を有しているということ)を、誰に対しても主張することができるようになります。
所有権保存登記をするメリット・デメリット
先に記載したとおり、所有権保存登記の申請は義務ではありません。
義務でないなら所有権保存登記をする必要性に疑問を抱きますよね。
しかし、申請をしないことにより不利益を被るおそれがあります。
以下、手続きをしない場合に考えられるメリットとデメリットを説明します。
手続をしないことによるメリットは、コストを削減できる可能性があることです。
手続をしないことによるデメリットとしては下記の通りです。
- 自分が所有者であると主張することができない
- 売却や担保権設定をすることができない
メリット
所有権保存登記の手続きをするには、税金などの諸費用がかかります。
この費用を節約したいという理由で、手続きをしない人も少数派ですがいるようです。
しかし、将来、建物を売却したり、担保権を設定して融資を受けたりする場合には、前提として、所有権保存登記がされていることが必要になります。
新築後、一度も売却や担保権設定をせずに建物を解体する、というような場合でないかぎり、いつかは手続をしなければなりません。
いざ手続きが必要になったときには、当初の所有者が亡くなってしまっているということも考えられます。
登記をせずに放置している期間が長くなるほど、権利関係も複雑になり、手続きに手間や費用がかかる可能性が高くなります。
デメリット
登記をしないと、自分がその不動産の所有者であることを、当事者以外の第三者に対して主張することができません。
仮に、同じ建物について、自分が所有者であると主張して登記も備えた人がいた場合、その人に対して建物を明け渡さなければならなくなる可能性があります。
また、建物の登記名義を取得していなければ、売却や担保権の設定をすることができません。
なお、新築建物の取得にあたってローンを利用する場合には、必ず抵当権設定登記の手続きも行いますので、事実上、所有権保存登記をしないという選択はできません。
登録にかかる費用の相場はいくら?
所有権保存登記にかかる費用としては、大きく分けて、登録免許税等の実費と、司法書士の報酬とがあります。
下記図表は、登録免許税と報酬の相場を表した図表です。
※居住用の軽減措置について
新築物件を取得した際、一定の要件を満たす場合には、所有権保存登記について、登録免許税の軽減を受けることができます。
軽減の主な要件は、以下の通りです。
①マイホームを取得したこと
登記簿上の建物の種類が、「居宅」となっていることが必要です。
住むための建物であっても、登記簿上の表示が「共同住宅」「事務所」などとなっている場合には、要件を満たしません。
②建物の床面積が50㎡以上であること
登記簿上で50㎡以上あることが必要です。
③所有権保存登記が、新築または取得後1年以内になされること
※認定住宅について
認定住宅には、長期優良住宅と認定低炭素住宅とがあります。
簡単に言うと、長期優良住宅は、バリアフリー性、耐震性、省エネルギー性などに優れ、安全に長く住むことができる家です。
認定低炭素住宅は、二酸化炭素の排出を抑えるための対策がされた、環境に優しい家です。
認定住宅についての軽減措置を受けるためには、一定の性能を満たすことの証明書などが必要ですが、通常はハウスメーカーや工務店が取得します。
所有権保存登記は司法書士へ依頼した方がいい?
所有権保存登記は、所有者自身が手続きを行うことも可能です。
ただし、新築戸建ての取得の際にローンを利用する場合には、同時に抵当権設定登記の手続きも行う必要があります。
そして、この抵当権設定登記に関しては、司法書士が手続きをすることがほとんどです。
登記手続きにミスがあった場合に無担保となりかねないなど、所有者自身に手続きを任せることは、金融機関にとってリスクが大きいためです。
また、前提となる所有権保存登記にミスがあり、取下げになってしまうと、その後の抵当権設定登記も申請することができません。
そのため、所有権保存登記については所有者自身が、抵当権設定登記については司法書士が、という手続きの分担をすることも、金融機関に嫌がられる可能性が高いです。
建売業者やハウスメーカーとの契約書で、手続きをする司法書士が指定されていることも少なくありません。
この場合には、ローンを利用しなかったとしても、自分で手続きをすることは難しいと思われます。
マイホーム購入の登記手続きを自分で出来るか詳しく知りたい方は『マイホーム購入の登記手続きを司法書士に依頼せず自分で出来るか?』をご覧ください。
所有権保存登記を自分で行う流れ
所有権保存登記を自分で手続する場合の流れは下記の通りです。
- 必要な書類を準備する
- 申請書を作る
- 法務局に提出する
- 完了後の書類を受け取る
それぞれ詳しく解説します。
登記申請書の作成
①登記の目的
「所有権保存」と記載します。
②所有者
所有者の住所、氏名、電話番号を記載し、印鑑(認印でもよい)を押します。
③添付情報
所有者の住民票と、住宅用家屋証明書を添付します。
住宅用家屋証明書については、後ほど詳しく説明します。
④登記識別情報の通知希望
この欄にチェックを入れてしまうと、登記の完了後に登記識別情報が発行されません。
登記識別情報は、いわゆる権利証にあたる大事なものですので、必ず発行してもらうようにしましょう。
⑤申請年月日
申請書を提出する日を記載します。郵送で申請をする場合には、日付を記載しなくても問題ありません。
⑥申請根拠条文
申請人がどのような立場の人なのかにより、根拠条文が違ってきます。
建物を取得した本人が申請する場合には、74条第1項第1号が根拠になります。
⑦法務局
不動産を管轄する法務局を記載します。
⑧課税価格
建物の固定資産評価額がある場合には、その価格を記載します。
登記を申請する年の途中で建物が建った場合には、まだ固定資産評価額がありません。
固定資産評価額は、毎年1月1日時点を基準にして算出されるためです。
固定資産評価額がない場合には、次の式で価格を求めます。
(管轄法務局が定めた1㎡あたりの価格)×(延床面積)=(建物の価格)
管轄法務局が定めた1㎡あたりの価格は、『新築建物課税標準価格認定基準表』という言葉と管轄法務局を一緒に調べることで、法務局が開示しています。
下記は東京法務局管轄の基準表です。
東京法務局管内新築建物課税標準価格認定基準表
今回の例では、価格を1,000万円としています。
⑨登録免許税
例えば、居住用の軽減措置を受けられるが認定住宅ではない場合、税率は0.15%になります。
(建物の価格1,000万円)×(税率0.15%)=(1万5,000円)
⑩不動産の表示
建物の表示を、登記簿の通りに記載します。
必要書類の準備
所有権保存登記を申請するにあたって必要な書類は住民票のみです。
ただし、登録免許税の軽減措置の適用を受ける場合には、住宅用家屋証明書が別途必要になります。
今回添付する住民票と住宅用家屋証明書は、登記の申請時には原本を提出する必要があります。
ただし、登記の完了後に、原本を返してもらうことができます。
原本の返却を希望する場合には、次のようなやり方で提出します。
住宅用家屋証明書は、建物の所在地の市区町村役場で取得します。
取得のために必要な書類は、役所により若干違いますので、詳細は各役所のホームページなどでご確認ください。
一般的には、以下の書類が必要になります。
・建築確認済証 または 検査済証
・表題登記の登記完了証および受領証 または 登記事項証明書
・住民票
・(建売住宅の場合)売買契約書 または 譲渡証明書
・(建売住宅の場合)家屋未使用証明書
・(新居に住民票を移していない場合)申立書
・(新居に住民票を移していない場合)現在の住居の売買契約書、賃貸借契約書など
・(認定住宅の場合)申請書の副本および認定通知書
(住宅用家屋証明書の一例)
法務局へ提出
添付書類と申請書の準備ができたら、登記を申請します。
登記を申請する方法としては、次の3つがあります。
①法務局の窓口に行って提出する
法務局の開庁時間は、平日の8時30分から17時15分までです。
②書類を法務局に郵送する
郵送の場合、書類が法務局に到着した日が登記申請日になります。
③インターネットで申請する
インターネットで申請するには、電子署名をして電子証明書を添付しなければなりません。
専用ソフトのダウンロードや、電子証明書を読み込むためのカードリーダーも必要です。
他の2つの方法と比べると、手間がかかってしまうかもしれません。
登記完了後書類の受け取り
登記が完了すると、登記識別情報と登記完了証が発行されます。
登記完了証は、登記が終わったというお知らせのようなものですので、登記識別情報ほどの重要性はありません。
添付書面の返却を希望した場合には、登記識別情報と一緒に受け取ることができます。
登記識別情報は、法務局で交付してもらうほか、郵送してもらうこともできます。
法務局で受け取る場合
・申請書に押印した印鑑と、身分証明書が必要です。
・登記が完了してから3か月が過ぎると、登記識別情報を受け取ることができなくなります。
郵送で受け取る場合
・申請書に、郵送で受け取りたい旨を記載しておく必要があります。
・申請書と一緒に、返信用封筒と、「書留料金+105円」分の切手を提出します。
・個人の場合、申請書に記載した住所あてに、本人限定郵便で届きます。
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